2008年、「人の心をあたたかくする手助けとなる技術開発」を目指してフェアリーデバイセズ株式会社を立ち上げた藤野真人さん。初のプロダクト「ステラウィンドウ」は、センサーを向けた方向にある実際の星空をパソコンに映し出し、いつでもどこでも鑑賞できるプラネタリウムのソフトウェア。次に取り組んだのは、人間の演奏表現を細部まで模倣することを目指した「バイオリン自律演奏装置」の開発。第二弾となるTEDxSeeds2011登壇者インタビューでは、人に生きる力を与える技術を求めて日夜開発を続けるエンジニア、藤野真人さんにお話を伺いました。
―これまでに開発された製品について教えていただけますか?
―これまでに開発された製品について教えていただけますか?
ステラウィンドウを開発したのは、会社を立ち上げたばかりの頃です。当時は、僕の他に仲間が一人いるだけで、製品の企画から設計、量産、営業、顧客サポートまでのすべてをたった二人でこなしました。一人では、絶対に無理でしたね。ただ、情熱とか、内発的な思いがあったというよりも、「やるしかない」と、ひたすら前につき進んでいました。走り始めた以上、いや、走り始めてしまった以上、途中で走るのをやめるという選択肢はなかった。何事も、90%まで積み上げるより、そこから100%に仕上げるところがものすごく難しいですよね。でも、その最後の10%に対して努力が甘いことは、基本的に認めたくないんです。僕の口癖で「命を懸けろ」というのがあります。それが仮に、人々にとって必要不可欠じゃない技術だったとしても、それでも、一つのプロジェクトに命を懸けて取り組んで、そこから得た知見を次に活かす。このことは貫いているつもりです。
「バイオリンの自律演奏装置」については、「機械が人の真似を出来るわけがない」という反論もありました。それは当然だと思います。でも、人間の表現や感情を直接測ることはできなくても、そのまわりには、弦の振動とか、音そのものをはじめ、人に近づける要素はたくさんあります。そのひとつひとつを網羅的かつ大量に計測し、学習し、再現し、積み重ねていく。それはとても地道な作業ですが、いつか人の表現そのものにつながっていくことができるのではないか。そういう思いで開発しました。
―今後取り組んでいきたいことは何ですか?
「語りえぬものについては沈黙しなければならない」という言葉があります。この「語りえぬもの」を、人の心や微妙な感情を代表とする、複雑なシステムの挙動に関する一切合切だとすると、僕は「語りえぬもの」の周辺にある「語りうるもの」のすべてを、可能な限り、大量かつ網羅的に語りつくしたいと考えています。そうすれば、語りえぬものの輪郭がおぼろげながらも見えてくるのではないか。そう信じているんです。これは、全く容易なことではありませんが、しかし、目指すものがずっと先にあっても、今、自分がそこに至るための第一歩を踏み出している確信があります。これからの道のりはとてつもなく長いかもしれません。でも、向かうべき方向は間違っていないと感じています。
(2011年10月8日、フェアリーデバイセズ社にて)
<編集後記>
ご自身の製品を「こいつはね…」と愛おしそうに説明してくださる姿が印象的だった藤野さん。その社内は、開発中の製品から小さな部品に至るまで、藤野さんの愛情が注がれてきたことを感じられる、とてもあたたかな空間でした。「人の心」という、とてつもなく大きなテーマに向き合う藤野さんの技術は、これからどんな世界を切り開いていくのでしょうか。新しい時代への予感を、TEDxSeeds2011を通して少しでも多くの方に感じていただけたら嬉しいです。
(文責:星野愛/TEDxSeeds Community Design Team)
ご自身の製品を「こいつはね…」と愛おしそうに説明してくださる姿が印象的だった藤野さん。その社内は、開発中の製品から小さな部品に至るまで、藤野さんの愛情が注がれてきたことを感じられる、とてもあたたかな空間でした。「人の心」という、とてつもなく大きなテーマに向き合う藤野さんの技術は、これからどんな世界を切り開いていくのでしょうか。新しい時代への予感を、TEDxSeeds2011を通して少しでも多くの方に感じていただけたら嬉しいです。
(文責:星野愛/TEDxSeeds Community Design Team)
【TEDxSeeds2011登壇者紹介ページ】 http://tedxseeds.org/conferences/2011/speakers
藤野真人(Masato FUJINO) http://www.fairydevices.jp/
エンジニア
1981年生まれ。日本各地を転々とし、東京大学理科一類入学、生物情報工学研究室を経て、同大学院、医学系研究科を中退。
生物学と工学の狭間の薄暗闇で10年間を過ごした後、人の心をあたたかくする助けとなる技術を追い求めることをテーマとして、フェアリーデバイセズ株式会社を設立。
2008年、最初のプロダクトとして、移動方向、向き、回転、さらに移動距離や移動速度まで算出できる「六軸センサー」によるパソコン用プラネタリウムソフトウェア「STELLARWINDOW」を開発し、日本、欧州を中心に販売。
2009年、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の事業、「未踏」(ソフトウェア関連分野において独創的なアイデア、技術、活用する能力を有する優れたスーパークリエータを、優れた能力と実績を持つプロジェクトマネージャーのもとに発掘育成する事業)のIT人材発掘・育成事業に「センサーデバイスを用いた弦楽器の自律演奏」が採択された。
竹内郁雄東京大学名誉教授ら、未踏プロジェクトマネージャー勝手連(勝手に集まり、ある人物や運動を応援する人たちの集団)が勝手に作った賞である「スーパーチャレンジャー認定」受賞。
現在は、機械と人間、計測可能性と不可能性の狭間で精力的に開発を進めている。
生物学と工学の狭間の薄暗闇で10年間を過ごした後、人の心をあたたかくする助けとなる技術を追い求めることをテーマとして、フェアリーデバイセズ株式会社を設立。
2008年、最初のプロダクトとして、移動方向、向き、回転、さらに移動距離や移動速度まで算出できる「六軸センサー」によるパソコン用プラネタリウムソフトウェア「STELLARWINDOW」を開発し、日本、欧州を中心に販売。
2009年、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の事業、「未踏」(ソフトウェア関連分野において独創的なアイデア、技術、活用する能力を有する優れたスーパークリエータを、優れた能力と実績を持つプロジェクトマネージャーのもとに発掘育成する事業)のIT人材発掘・育成事業に「センサーデバイスを用いた弦楽器の自律演奏」が採択された。
竹内郁雄東京大学名誉教授ら、未踏プロジェクトマネージャー勝手連(勝手に集まり、ある人物や運動を応援する人たちの集団)が勝手に作った賞である「スーパーチャレンジャー認定」受賞。
現在は、機械と人間、計測可能性と不可能性の狭間で精力的に開発を進めている。