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大樋窯変器「尊崇」 第67回現代美術展常任評議委員審査員出品作品 |
3月11日の東北大震災後、大樋氏は5月18日~24日まで、横浜高島屋7階の美術画廊で『絆(きずな)の個展』を実施した。展示作品は約120点。絆・生命を主題に、「祈りの器」、「尊崇」など今回の出品作品はすべて、震災後に制作したものだ。この個展にあたり大樋氏が抱いた思い、また「絆」ということばを選んだ理由、そして今後のビジョンについて語って頂いた。
【「絆」とは、共有、共鳴し合い変化をもたらすこと】
「絆」という言葉から大樋氏が導き出したのは、「一人ではなく誰かとともに行動すること。そして、個人的な損得で動くのではなく、それぞれが大事な人に対して抱く思いを共有し、共鳴し合うこと」である。たとえば、東北大震災のために義援金を集める、ボランティアに参加する、あるいは会いたい人を想ったり、亡くなった方のために祈ること。多くの人の心を寄せ合うことで、それがひとつのウェイブを起こし、一人ひとりの物事への意識を変化させるきっかけにもなる。
【言葉を無意味に振りかざさず、まず行動する】
一方で大樋氏は、「絆」という言葉だけがひとり歩きし、乱用されることに懸念を示す。震災直後に歓迎された言葉でも、ずっと聞かされていると、それは理念ではなく、ただむなしく響く、名目だけのものになってしまう」というのだ。「絆」という言葉に本来備わる、正しさ、美しさの意味も、一辺倒に連呼され続ければ、色あせてしまう。地震から4ヶ月あまりが経過した今、大樋氏はそれを強く実感するという。「絆」にとどまらず、「義援」、「節電」、「エコ」といった一般的に「善」とみなされるものに向き合うときの姿勢について、私たちは、本当にそれでいいのかどうか考え直す必要がある。大樋氏の鳴らす警鐘はそこにある。大樋氏の、「絆」という言葉がもつ精神性や基本的なスタンスは、震災直後から今に至るまで、少しも変わっていないという。だが、もともと言葉に備わっている力は、これが大量生産の商品のように流通し、過剰なほど多用されれば、本来の価値を失い、安っぽくなり、むなしい響きになる。

【ものづくりにおけるプロセスの可視化、作品こそが創作者の生き方】

今回の大震災に限らず、1989年にサンフランシスコで体験したロマ・プリータ地震(*1)、1995年の阪神・淡路大震災があり、大樋氏の自然に対する畏怖の念はさらに強くなった。同時代を生きる人たちの意識の変化も目の当たりにした。その中で、無理やり昔に回帰するのではなく、等身大の、今の自分を素直に表現すること、自身の生き方を投影することが大切だという。その視線はぶれることがない。現在に立ち会いながら、過去をリスペクトし、そしていつも未来を見据えている。
(*1)1989年10月17日17時4分にアメリカカリフォルニア州北部で発生した地震。地震の名前はサンフランシスコ郊外でサンノゼ市の南にあるロマ・プリータ山付近が震源地だったことによる。マグニチュード6.9。この地震による死者は63人にのぼり、ビルなどの建造物の損傷の他に、高速道路などが倒壊する被害が発生した。
大樋年雄
ボストン大学大学院にて修士課程取得 (M.F.A.)。1998年、月心寺•曹洞宗(金沢)にて得度。得度名は「大玄雄月」上座 。2007年、裏千家坐忘斎御家元より茶名「宗炎」拝受。ロチェスタ-工科大学客員教授 、台南藝術大学客員教授、金沢大学客員教授、東京藝術大学講師などを務める。建築などのデザイナーとしても活躍。国内外で多数の公開制作、展覧会などの招聘を受ける。作品は世界各国で所蔵されている。9月7日から13日、金沢香林坊大和。11月16日から22日、京都高島屋で個展の開催が予定されている。
【大樋先生の御講演・個展のお知らせ】
「講演」「個展」予定です。
タイトル:裏千家淡交会鹿児島支部「茶道講演会」
『危機の時だから支えてくれる文化』
日時:2011.08.07(日)10:30~12:30
場所:鹿児島・かごしま県民交流センター
参加数:600名
タイトル:大樋年雄 個展「天命」
日時:2011.09.07(水)~12.04(火)
場所:金沢香林坊大和
タイトル:大樋年雄 個展「天命」
日時:2011.10.05(水)~10.11(火)
場所:米子高島屋
タイトル:日米陶芸展レセプション
当日、審査員として渡米。そして審査講評
日時:2011.10.21(金)18:00
場所:米国ニューヨーク、NIPPON CLUB
タイトル:日展
審査員出品
日時:2011.10.28(金)~12.04(日)
場所:国立新美術館
タイトル:大樋年雄 個展「天命」
日時:2011.11.16(水)~11.22(火)
場所:京都高島屋
<文責:TEDxSeeds広報チーム>
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