2011年10月18日火曜日

語りえぬものにむかって~人に生きる力を与える技術~エンジニア 藤野真人氏


2008年、「人の心をあたたかくする手助けとなる技術開発」を目指してフェアリーデバイセズ株式会社を立ち上げた藤野真人さん。初のプロダクト「ステラウィンドウ」は、センサーを向けた方向にある実際の星空をパソコンに映し出し、いつでもどこでも鑑賞できるプラネタリウムのソフトウェア。次に取り組んだのは、人間の演奏表現を細部まで模倣することを目指した「バイオリン自律演奏装置」の開発。第二弾となるTEDxSeeds2011登壇者インタビューでは、人に生きる力を与える技術を求めて日夜発を続けるエンジニア、藤野真人さんにお話を伺いました。


―これまでに開発された製品について教えていただけますか?

ステラウィンドウを開発したのは、会社を立ち上げたばかりの頃です。当時は、僕の他に仲間が一人いるだけで、製品の企画から設計、量産、営業、顧客サポートまでのすべてをたった二人でこなしました。一人では、絶対に無理でしたね。ただ、情熱とか、内発的な思いがあったというよりも、「やるしかない」と、ひたすら前につき進んでいました。走り始めた以上、いや、走り始めてしまった以上、途中で走るのをやめるという選択肢はなかった。何事も、90%まで積み上げるより、そこから100%に仕上げるところがものすごく難しいですよね。でも、その最後の10%に対して努力が甘いことは、基本的に認めたくないんです。僕の口癖で「命を懸けろ」というのがあります。それが仮に、人々にとって必要不可欠じゃない技術だったとしても、それでも、一つのプロジェクトに命を懸けて取り組んで、そこから得た知見を次に活かす。このことは貫いているつもりです。



―次々と新たな開発に取り組まれていますね。

「バイオリンの自律演奏装置」については、「機械が人の真似を出来るわけがない」という反論もありました。それは当然だと思います。でも、人間の表現や感情を直接測ることはできなくても、そのまわりには、弦の振動とか、音そのものをはじめ、人に近づける要素はたくさんあります。そのひとつひとつを網羅的かつ大量に計測し、学習し、再現し、積み重ねていく。それはとても地道な作業ですが、いつか人の表現そのものにつながっていくことができるのではないか。そういう思いで開発しました。








―今後取り組んでいきたいことは何ですか?

「語りえぬものについては沈黙しなければならない」という言葉があります。この「語りえぬもの」を、人の心や微妙な感情を代表とする、複雑なシステムの挙動に関する一切合切だとすると、僕は「語りえぬもの」の周辺にある「語りうるもの」のすべてを、可能な限り、大量かつ網羅的に語りつくしたいと考えています。そうすれば、語りえぬものの輪郭がおぼろげながらも見えてくるのではないか。そう信じているんです。これは、全く容易なことではありませんが、しかし、目指すものがずっと先にあっても、今、自分がそこに至るための第一歩を踏み出している確信があります。これからの道のりはとてつもなく長いかもしれません。でも、向かうべき方向は間違っていないと感じています。


(2011108日、フェアリーデバイセズ社にて)


<編集後記>
ご自身の製品「こいつはね…」と愛おしそうに説明してくださる姿が印象的だった藤野さん。その社内は、開発中の製品から小さな部品に至るまで、藤野さんの愛情が注がれてきたことを感じられる、とてもあたたかな空間でした。「人の心」という、とてつもなく大きなテーマに向き合う藤野さんの技術は、これからどんな世界を切り開いていくのでしょうか。新しい時代への予感を、TEDxSeeds2011を通して少しでも多くの方に感じていただけたら嬉しいです。
(文責:星野愛/TEDxSeeds Community Design Team


TEDxSeeds2011登壇者紹介ページ】 http://tedxseeds.org/conferences/2011/speakers


藤野真人(Masato FUJINO) http://www.fairydevices.jp/
エンジニア 
1981年生まれ。日本各地を転々とし、東京大学理科一類入学、生物情報工学研究室を経て、同大学院、医学系研究科を中退。
生物学と工学の狭間の薄暗闇で10年間を過ごした後、人の心をあたたかくする助けとなる技術を追い求めることをテーマとして、フェアリーデバイセズ株式会社を設立。
2008
年、最初のプロダクトとして、移動方向、向き、回転、さらに移動距離や移動速度まで算出できる「六軸センサー」によるパソコン用プラネタリウムソフトウェア「STELLARWINDOW」を開発し、日本、欧州を中心に販売。
2009
年、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の事業、「未踏」(ソフトウェア関連分野において独創的なアイデア、技術、活用する能力を有する優れたスーパークリエータを、優れた能力と実績を持つプロジェクトマネージャーのもとに発掘育成する事業)のIT人材発掘・育成事業に「センサーデバイスを用いた弦楽器の自律演奏」が採択された。
竹内郁雄東京大学名誉教授ら、未踏プロジェクトマネージャー勝手連(勝手に集まり、ある人物や運動を応援する人たちの集団)が勝手に作った賞である「スーパーチャレンジャー認定」受賞。
現在は、機械と人間、計測可能性と不可能性の狭間で精力的に開発を進めている。

2011年10月6日木曜日

オーサグラフ ~21世紀の世界地図~          建築家、オーサグラフ開発者 鳴川肇氏

SEEDS TIMESでは、10月22日(土)のTEDxSeeds2011会議に向けて、登壇者の方々への
事前インタビューの模様をお届けしていきます。

 第一弾は、建築家でオーサグラフ開発者の鳴川肇さんです。
オーサグラフは、authalic(面積が等しい)とgraph(図)に由来し、立体をできるだけゆがみを少なくして平面に表す方法のこと。この手法を使って作られたオーサグラフ世界地図は、陸地の面積比を極力正しくかつ形状のゆがみも抑えながら、長方形の平面に収めることに成功した画期的な地図です。
様々な模型やデザイン画が並ぶアトリエにお邪魔し、この新しい世界地図を作るに至った経緯についてお話を伺いました。




 「オーサグラフは地球儀と地図との間を行き来できるようなもの。いろんな見方があっていい、そう考えたらすごく面白いことになるんじゃないか」


■今までにない空間表記法を求めて 

―子供の頃からものを作ったりするのが好きだったんですか?

はい。勉強は好きではなかったのですが、イタズラや工作は好きでした。僕の場合、子供の頃の遊びも、建築も、幾何学も、全て一繋がりにあるんです。
もともと空想好きな子供でしたから、その延長で、大学では建築史を学び、物語性のある建物のビジョンをたくさん提案しました。でも、やればやる程に、構造的にきちんと成立しなければ面白くないと考えるようになり、構造の世界に入りました。




―構造からどのように世界地図へと繋がったのでしょうか?

始めから世界地図を作ろうと思っていたわけではないんです。オーサグラフ世界地図は建築のデザインに使う透視図法のゆがみを直す研究の延長線上にあります。透視図法のゆがみについては、発明したダ・ヴィンチ本人を含め500年以上も前から言及されているのに、今も変わらず使われていて、僕は「それってちょっと変だな」と思ったんです。建築家はどうやったら空間をゆがみなく平面に表現できるか、その方法についてもっと考えなくてはいけないんじゃないかと。だから僕は、オランダの大学院で全方位をゆがみなく平面に表せる透視図法を提案し、最終的には、真上と真下も含めた360度以上の世界を写せる、全方位カメラを作りました。



■世界中、どこが中心でもいい

―そのカメラの技術がオーサグラフ世界地図に応用されているんですね。

はい。オーサグラフ世界地図は、どこを中心にしても長方形に収まるゆがみの少ない地図です。つまり、ブラジルや南アフリカ、南極…世界中、どこが中心でもいいんです。また、地理情報や様々なデータもさることながら、国境や気象の変化など、時間軸を入れて見ることも出来るのです。


 ―可能性が広がりますね。

僕は、地球を見る時に、地球儀を見るか、地図を見るかって、二者択一の考えかたには反抗するクセがあるんですね。例えば、建物の一階と二階の移動手段は?と言われて先ず思いつくのは階段、エレベーター、エスカレーターといったところでしょう。でも、ほんとにそれだけ?って思いませんか?すべり台でもいい。そしたら建物のデザインはガラリと変わります。つまり、地球を見る手段を変えると、新しい発見があると思うんです。


 ―TEDxSeeds会議2011では、どんなことを伝えたいですか?

当日、もちろん言葉でも説明しますが、アニメーションや絵を見たり、模型を触ったりして、実際に体験してもらいたいですね。楽しい図工ワールドです。オーサグラフの世界地図は、人によって違う物語がいっぱい展開できること、それが何て言ったって楽しい。その楽しさを伝えられたらいいなと思います。


―本日はありがとうございました。


(2011年9月29日、鳴川氏アトリエにて)



 <編集後記> 
何より感銘を受けたのは、鳴川さんの作品全てに共通するデザインの美しさ。そして、オーサグラフ世界地図は、世界の多極化、緊密なネットワーク、生態系を重視する21世紀の時代に合ったものだと感じました。この地図を自由に操り思い思いの視点を備えた子供たちは、これまでの世代の人たちとは異なる世界観で一つの地球を眺め、今よりずっと「宇宙船地球号」を上手に操縦するのではないか、そんな想像を膨らませました。鳴川さんの図工ワールド、是非TEDxSeeds2011で体験してみてくださいね。(文責:松井華織/TEDxSeeds Community Design Team)

【TEDxSeeds2011カンファレンスプログラム・登壇者紹介ページ】
http://tedxseeds.org/conferences/2011/speakers



鳴川 肇(Hajime NARUKAWA)  http://www.authagraph.com/
建築家、オーサグラフ開発者。
1971年生まれ。芝浦工業大学卒。東京藝術大学修士課程修了。1994年から幾何学理論の研究を始める。
VMX Architects、佐々木睦朗構造計画研究所を経て、2009年 AuthaGraph株式会社設立。同年、ICC「オープン・スペース 2009」テーマ展示「ミッションG :地球を知覚せよ」において、「オーサグラフ」による世界地図を初公開。
現在は、主に模型による立体幾何学的検証を軸にアイデアを展開し、社会のニーズにどう応用できるかを探求している。美術、デザイン、エンジニアリングの分野にわたり活動中。本年6月、日本科学未来館による常設展示、「ジオ・コスモス、ジオ・パレット、ジオ・スコープ」において、基本設計、実施監修を担当。1994年、「ゴールデン街の小劇場」でJIA卒業設計競技金賞、1996年にはサロン・ド・プランタン賞を受賞、他受賞多数。
日本国際地図学会会員。桑沢デザイン研究所、東京造形大学非常勤講師。日本科学未来館アドバイザー。


【日本科学未来館「つながり」プロジェクト】
現在、日本科学未来館「つながり」プロジェクトのGeo-Scope(ジオ・スコープ)、Geo-Palette(ジオ・
パレット)では、「オーサグラフ」を使った“中心のない地球”という、新しい地球 の捉え方を提示しています。
特設サイト:http://www.miraikan.jst.go.jp/sp/tsunagari/