2012年1月29日日曜日

パフォーミングアートで人に刺激を         —演出家、振付家、ダンスパフォーマー、蛯名健一氏

20111022日(土)に開催されたTEDxSeeds2011会議で、この日のためにアメリカから来日し、13分間の渾身のダンスパフォーマンスで会場を湧かせてくれた「EBIKEN(エビケン)」こと、蛯名健一さん。アメリカ留学中に独学でダンスを始め、2001年、NYハーレムのアポロシアターで開催されたアマチュアナイトで年間総合チャンピオンとなり、2007年には、TV“Showtime at the Apollo”で7回連続優勝、アポロシアター史上唯一の2冠を飾った実力の持ち主だ。ジャンルに拘らず、多様な表現を取り入れた独自のエンターテイメントを確立し、現在、パフォーマーとしてだけでなく、振付や演出も手掛け、活躍の場を世界へと広げている。会議終了後は、そのまま東北へ入り、被災地の子供たちを激励。ご帰国の前に、お話を伺った。



「僕のパフォーマンスを観て、1人でも『明日から何かやってみよう』思ってくれたら嬉しい」



TEDxSeeds2011を振り返っていかがでしたか?

素晴らしい人たちの志を肌で感じることが出来、すごく良い影響を受けました。正直、これまで自分はただのパフォーマーなので、やれる事は限られていると考えていました。でも、例えば、消防士の佐藤康雄さんのスピーチには強い衝撃を受けたし、登壇者の話を生で聞き、今回出会った人、関わった人たちのパッションに触れ、たとえ微力であっても、これを機に、社会や人のためにもっと貢献しなくてはという気持ちになりました。良い影響は、伝染すると思うんです。伝わって来た気持ちに、僕も応えたいと思いました。







 東北ではどんな活動をされたのでしょうか。

今回、TEDxSeeds会場で出会った、参加型の紙芝居プロジェクトをやっている素晴らしい方とのコラボレーションで、福島と宮城の小学校と幼稚園、全部で7ヶ所を巡りました。「真夜中の人形」という構成を作ったんですが、最初、ピエロに扮して、衣装もメイクもしっかりやったら、小さな子が怖がって泣いちゃったんです。だからその後は、人間として動きだけで表現するようにしました。試行錯誤を重ね、最後は一緒に行ったスタッフも全員参加で、よりインタラクティブなやり取りが出来たと思います。「エビケン!ロボットやって!」とか、子供たちが本当に可愛かった。でも、僕がパフォーマンスするにあたっての気持ちっていうのは、どこへ行っても基本的には一緒です。別に被災地だからどうのじゃなくて、純粋に人を楽しませたい、ってそこだけです。





―ダンスを始めたきっかけは?

20歳の時にアメリカへ渡り、学校の新入生歓迎パーティーで踊ったことです。僕は、積極的に前へ出るタイプでも無かったんですが、ただ見ているだけというのが気まずくて、当時、唯一知っていた「ランニングマン」というステップを皆の前でやりました。そしたら、盛り上がったんですよ。それで「かっこいいんだ俺」、「気持ちいいじゃん」って。そこからビデオを見たりして、独学でダンスをやるようになりました。でも結局、その時、盛り上がったのは僕の勘違いだったんですけどね。皆、可笑しくて盛り上がっていただけで、実際は、全然クールって感じではなかったんですよ。






―ダンスが自分の道だと思った瞬間があったのでしょうか?

大学の学園祭で、国別対抗の出し物をするコンペがあり、日本代表のパフォーマンスディレクターをやりました。人に対する「忠誠心」を、日本の伝統芸能のイメージと、当時自分がやっていたストリートダンスの要素を組み合わせたオリジナルのパフォーマンスで見せたんです。そしたら、それがウケたんですよね。終わった後の反応がすごくて、お客さんからの波動を全身で「バチバチバチー」って感じました。それが大きかったです。それからですね、のめり込んでいったのは。



―ダンスに対する思いは?

意識の中にあるのは、自分のパフォーマンスに感動してもらえて、それが刺激となったら、観てくれた人の中で何かが変わるかもしれないということ。色々難しい状況を変えていくには、もちろん国の政策とか教育とか色々な問題もありますが、何より1人1人が向上心を持ってやらないと。だから、そういう個人にきっかけを与えたい。僕のパフォーマンスを観て、100人のうち1人でも「明日から何かやってみよう」と思ってくれたら嬉しいんです。



今後の予定をお聞かせください。

今後は、拠点を日本へ移して活動して行こうと考えています。1時間とか、1時間半とかのワンマンショーも実現させたい。あとは、やりたいものがイメージとしてあるので、ディレクターとしてプロディースが出来たらいいなと思っています。今はソロがメインですけど、色んな人と一緒に自分だけでは出来ないこともやっていきたい。そして何より、「パフォーミングアートに興味を持ってない人に、興味を持ってもらいたい」ですね。パフォーミングアーティストの地位の底上げをしたい。アメリカにあるブロードウェイみたいなものが日本ではなかなか成り立たないですが、そういう文化や意識を醸成させるため、日本から何かを発信していく力になれたら、という思いがあります。



今日は本当にありがとうございました。



 (2011年11月10日)




<編集後記>
ステージでは最後までロボットに扮し、一言も発することなく、キレのあるパフォーマンスで会場を湧かせてくれた蛯名さん。素顔はとても気さくで情熱的な方でした。歌舞伎からストリートダンスまで、自分が刺激を受けることは何でも貪欲に吸収する熱意と謙虚な姿勢が、ジャンルの枠に囚われない蛯名さんの多彩なパフォーマンスを支えているのだと思いました。2012年からは、活動場所を日本に移されるとのこと、今後の活躍が楽しみです。蛯名さんのパフォーマンスをまだ観ていないという方は、ぜひ動画でチェックしてみてくださいね。(文責:松井華織/TEDxSeeds Community Design Team


動画はコチラです↓
【Kenichi EBINA 蛯名 健一 - A Day of RoboMatrix - TEDxSeeds 2011


蛯名健一 [Kenichi EBINA]
演出家、振付家、ダンスパフォーマー。   http://www.ebinaperformingarts.com/
1974年生まれ。1994年渡米。
ブリッジポート大学在学中に趣味でヒップホップダンスを始め、Poppin’Lockin’HouseJazz、パントマイム、民族舞踊など様々なジャンルのダンスを独学。
2001年、NYハーレムのアポロシアターで開催されたアマチュアナイトで年間総合チャンピオンの座につき、2007年にはTV版コンテスト番組“Showtime at the Apollo”で7回連続優勝を果たし、アポロシアター史上唯一の2冠を飾る。同年、TED会議(米国カリフォルニア)のステージに招かれパフォーマンスを披露。
以後、ダンスを軸に、マイムやイリュージョン、映像など多様な表現を取り入れ独自のエンターテイメントを確立し、年齢を問わず誰もが楽しめるパフォーマンスを目指し活動。
シルク・ドゥ・ソレイユによるスペシャルイベント、ディズニーの人気クルーズ船「ワンダー号」・カリブ海ツアーのショー、ポップの女王マドンナやモロッコ王族主宰のプライベートイベント他、テレビ番組にも出演、「エビケン・EBIKEN」の愛称で、多くの観客を魅了する。
活動拠点であるニューヨークにて、セレブもお忍びで訪れると評判の高級クラブのバラエティーショーにレギュラー出演中。

201218日(日)、世界パフォーマンス大会「KAMIWAZA〜神芸〜」(ABCテレビ・テレビ朝日系)に出演、初代優勝者となる。