一人の流出原油清掃員との印象的な出会いをきっかけに始まった、海上流出原油回収ロボット「プロテイ(Protei)」の壮大な開発ストーリーが記憶に新しいTEDxSeeds2011登壇者、セザール原田氏。彼が創設した「オープン・セイリング」プロジェクトは、開発された技術やアイデアを世界中の人々とオープンに共有し合いながら発展させていくという全く新しい方法によって、広く海洋問題の研究と解決を目指している。会議開催後には、自転車で旅をしながら仙台に向かうというセザール原田氏に、今後についてお話を伺った。
―TEDxSeeds2011はいかがでしたか?
TEDxSeedsのステージでは、現在取り組んでいる研究について知ってもらい、どんな貢献ができるのかスピーチしようと思い、東京に来ることを決めました。会場では、多くの方から直接フィードバックをもらえて嬉しかったですね。登壇の依頼がきた時には、まず3.11の津波被害と原発事故のことが頭に浮かびました。私は日本人の父を持っていて、日本という国にとてもつながりを感じています。そして、家族から引き継いだ神道の精神も、とても大切なものです。もともと、日本文化のルーツには神道があり、自然への感謝がありますよね。私は、3.11によって新たな認識や考え方が生まれた今こそ、日本人がこの精神を思い出し、文化の再構築をするべき時ではないかと感じています。そのためにも、自分自身にできることは何なのか、ずっと考えてきました。
―調査のために仙台へ?
―調査のために仙台へ?
はい。放射能について詳しく知るためです。今はまだ、企業や国、政府によってコントロールされていて、少しの地点でしか計測をしていないですよね。特に海での観測地点は少ないのです。しばしば、地元の人が独自に測った濃度が、国が出しているデータよりもずっと高いことが話題になっていますが、このギャップを、プロテイのテクノロジーを応用して解決できないか考えています。また、これからは政府が一方的に国民に対して情報を与えるのではなく、地域の人や、一市民が公にデータを公開できるような仕組みが必要だと感じています。実際、その地域に住んでいる人のほうが、はるかに詳しく現状を知っていたりしますよね。情報の流れを変えることは、今後、重要な課題になってくると思います。
現地の人々と出会うためです。これは同時に、私が開発しているボートを入れられる場所を探すための旅でもあるのですが、何より、その地域の人々と交流することを大切にしています。以前ケニアに住んでいたことがあるのですが、彼らの生活はとても貧しいものでした。しかし、私はただ単に、彼らを助けてあげよう、という風には考えませんでした。それよりも、現地の人々に協力し、一緒に働くことを大切にしていました。“help”ではなく、“work with”という姿勢です。どんな問題も、一方的な思いや行動だけでは、根本的な解決にはならないと思うのです。
“人間ではなく、自然のためにテクノロジーを使うこと”
―これからの社会には、どのようなシステムが必要でしょうか。
人間と環境の関係においては、テクノロジーはその中心にあります。原発は、もともと人のためにつくられたもので、生活を支えるのが目的でした。でも、結果的に自然にとって良いものではなかった。だから、まずは人間よりも自然のため、ということを重視してテクノロジーを使わなければならないと考えます。テクノロジーが自然のためのものならば、いずれその恩恵が人間にも返ってくるからです。我々もその一部である、自然という大きな体系を守るべきなのです。人から自然に働きかけるだけでなく、自然から人への影響についても考えることのできる、双方向の関係性が大事だと思います。
これからの40年をかけた構想があります。まず、2012年はプロテイとリモートエンジニアリングの開発、そして流出原油のクリーニングです。二つ目は、“International Ocean Station”(国際海洋ステーション)という、海上の宇宙ステーションのようなシステムづくり。これは今、調査グループをつくっているところです。そして三つ目は、“WEA”(World Environment Action)で、リアルタイムでの自然環境に関するデータや、気候や汚染レベルのデータ分析をすることです。そしてこの三つが可能になったら、もっと先の未来では、人間文化のあり方や、環境との関わり方を変えていきたいと考えています。つまり、自然とどう付き合っていくのか、まずは人間の精神を変えること。これは、我々がひとつの種として生き残るためにも重要なことです。今はまだ実践的な段階ですが、いずれ政策へと展開していければと思っています。
(2011年10月23日)
<編集後記>
にこやかな笑顔と力強い語り口が印象的だったセザール原田さん。TEDxSeeds2011会議の翌週には、仙台で行われた“TEDxTohoku”の会場に駆けつけ、舞台裏からスタッフを応援してくれたそうです。とてもフレンドリーな性格でありながら、問題を冷静に見据える厳格さ、そして何事に対してもフェアであることを大切にする強い信念を感じました。セザール原田さんの情熱を、是非動画を見て感じて頂きたいです。(文責:星野愛/TEDxSeeds Community Team)
動画はコチラです↓
【Cesar HARADA セザール原田 - The story behind Protei - Open source sailing drones - TEDxSeeds 2011】 http://www.youtube.com/watch?v=y7v057CH8lE
セザール原田 [Cesar HARADA]
「オープン・セイリング」プロジェクト創設者。
海洋問題解決の研究をテーマとする「国際海洋ステーション」開発プロジェクト「オープン・セイリング」の創設者であり、コーディネーター。2011年のTEDシニアフェローとしても活躍。
ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英国)にて、デザイン交流学部を卒業後、2001年には、歴史的な成績でエコールブール(フランス)を卒業。彼が制作した映像、アート作品等は、これまでにアメリカ、日本、フランスといった国々での一流のイヴェントに出品されてきた。
「オープン・セイリング」は、2009年度プリ・アルスエレクトロニカ「ネクスト・アイデアカテゴリー」で“ゴールデン・ニカ(最優秀賞)”を受賞。様々な専門家とのコラボレーションにより進行しているこのプロジェクトでは、開発された技術やアイデアがすべてインターネット上で公開されており、より良い研究と開発を目指す専門的な知識を持つ人は誰でも、世界中から参加することができる。
現在、メキシコ湾に拠点を構え、メキシコ湾原油流出事故・問題解決に向け、流出した原油回収を自動的に行う無人帆船「プロテイ(Protei)」の開発に取り組んでいる。
◇ Open_Sailing: http://opensailing.net/
◇ Protei: http://protei.org/
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